伊東しおり『新米納棺師しおりの最後のはじめまして』-遺族の心の負担をも軽くする仕事

コミックエッセイ『新米納棺師しおりの最後のはじめまして』を、マンガアプリ「ピッコマ」で読むのを楽しみにしている。
伊東しおり先生の自叙伝的マンガだ。
納棺師とは、亡くなった方の身体をきれいに整え、ご遺体を棺に納める人のこと。
このマンガを読むまで、納棺師の仕事について、殆ど知らなかった。
『おくりびと』が納棺師を描いた映画というくらいの知識がある程度。映画はまだ観ていない。
以前に祖母が亡くなったとき、葬儀社のスタッフの方が、湯灌を行い、髪や顔もきれいに整えてくれたことがあった。
病気で面変わりをしていた祖母は、お化粧を施されて、生前の面影が戻ってきた。まるでただ眠っているように見えた。
今思えば、あれが納棺師の仕事だった。
祖母の顔を見て、親戚の皆が「きれいにしてもらえてよかったね」と口々に言った。
すごく悲しかったけれど、きれいになった祖母を見るのは嬉しかった。
『新米納棺師しおりの最後のはじめまして』は、しおり先生が納棺師になるために、面接会場を訪れるところから始まる。
そしてぶっつけ本番、面接当日に納棺式に立ち会うことになる。亡くなった方と接する仕事なので、一度実際に現場を見て、本当に働けるか判断してもらうためなのだという。
実際に納棺式を見学し、その厳粛な仕事内容に感銘を受け、改めて納棺師になることを決意するのだった。
もちろん初めて経験することばかり。その過程を、読者も追体験していくことになる。
そして、状態のよい遺体ばかりではないことが、次第に明らかになっていく。
腐敗が進んで、顔の原形のない遺体のお手当をする回がある。
遺体の処置もそれはもう大変なのだが、それだけではない。
故人が身につけていた衣装の処理を終えて、「体液とか色々染み込んだ衣類を捨てるのが一番キツイなんて」という、経験した人でなければ出ないセリフが飛び出す。
「特殊清掃や遺品整理の皆様、心から尊敬します」ともつぶやくのだが、イヤイヤ、納棺師の仕事だって本当に過酷で、充分尊敬に値しますよ、と言ってあげたくなるのだった。
私たちが、祖母を眠っているように感じることができ、悲しみにくれることができたのは、納棺師の方が、しっかりとお手当をしてくれたからだ。それがやっと今、わかった。黄疸が強く出ていたり、体液や血液が漏れるようなことがあれば、とても平静ではいられなかっただろう。
遺体をきれいに整えるだけではなく、遺族の心の負担をも軽くしてくれる仕事なのだと思う。
何より、しおり先生のご遺体に掛ける心の声が、優しくて心に沁みる。
尊厳を持って、生きている人にするように、言葉をかける。
私も死んだら、しおり先生のような納棺師に処置してもらいたい。
そんなことを思わせてくれる作品だ。
今ならマンガアプリ「ピッコマ」で無料で読めるので、気になる方はどうぞ。
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