ささやななえ『化粧曼荼羅』-恐怖は日常のすぐ隣に紛れ込んでいるのかもしれない

前回(「ささやななえ『霊送の島』-民俗学テイストのホラー」)に引き続き、ささやななえ(現在は、ささやななえこに改名)先生の『化粧曼荼羅』を読み返し。
管理人が持っている、あすかコミックスは、前後編の2冊セット。『化粧曼荼羅』の他、『オシラ伝』『河童』が同時収録されている。
こちらも、ささや先生の十八番、民俗学的テイストのホラー作品。
憧れの緒形夜刀彦の家の隣に引っ越してきた、大学生の宮前珠々子。
その夜から珠々子の周囲で不可解な出来事が起こる。そこに、緒形家に暮らす「九沼白貴」という謎めいた美少年が、関わっていく。
怖いシーンがある。
銭湯の帰り道の踏切で、遮断機が下り、珠々子の目の前を電車が走っている。
電車越しに、向かいの人達の足元が見える。
その中に、ひときわ小さな子どもの足。
「こんな遅い時間まで出歩いているのかしら」と訝しく思う珠々子。ふと「この電車が通りすぎたらいなかったりしてね」…そんな思いが頭をよぎる。
一瞬浮かんだ考えを、「なんてこと考えるのよ そんなの怖い!」と自ら否定する。
電車が通り過ぎる。はたして、スカートを履いた女の子が、踏切の向こう側にちゃんといる。
「自分で自分の考えたことに怖くなってちゃ世話ないわね」とほっとする。
何事もなく珠々子の脇を通り過ぎる女の子。
しかし、通り過ぎた女の子の首は、とぐろを巻くように奇妙に伸びて、後ろ向きのまま、顔だけが、珠々子を凝視しているのだった。
この緩急のつけ方がめっちゃ怖い。
ほっとさせておいて、恐怖はいまだ去っていない。
ふと気づくと、夜の暗闇の中、異形のものが日常に紛れ込んでいる。そんな怖さが存分に伝わってくる。
そこに現れた「白貴」は、女の子のことを「餓鬼」だと告げ、珠々子を助ける。
珠々子のところに遊びに来た友達が、カマイタチにやられて、身体の数カ所から血が噴き出すシーンも衝撃的だ。
「カマイタチ」…強い風が吹いたときにできた真空で、突然皮膚が裂ける怪異。切り口は、鋭利な鎌で切ったようになる。
カマイタチという言葉も、このマンガで知った記憶がある。
今は芸人の「カマイタチ」さんがいるので、メジャーな言葉になったけど、読んだ当時はそうじゃなかった気がする。
こういう怖さが随所に盛り込まれた作品。
謎めいた「白貴」がまたなまめかしくて、よいのである。「白貴」は、霊と交信できるオシラという存在。
夜刀彦の祖母に裸体をさらして絡むシーンなど、どきどきもの!!
なぜそういうことになってるかは、本書を見てくださいましね。