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美内すずえ『孔雀色のカナリア』-誰かを演じることの悲劇

孔雀色のカナリア

美内すずえ先生の『孔雀色のカナリア』再読。

『ガラスの仮面』で有名な美内すずえ先生の初期作品。
セブンティーン・コミックスを見ると、初出は1973年になっている。

美内先生のスト―リーテラーとしての才能がいかんなく発揮された作品。

今読んでも、物語の巧みさにぐいぐい引き込まれる。

母に虐待を受けながら、極貧の中で育った水谷亜紀子。
むちゃな生活をしていた母が亡くなるとき、亜紀子には双子の妹がいることを明かされる。母亡き後、親戚のパン屋で使用人同然にこきつかわれていた亜紀子だが、
何気なく見た週刊誌で、双子の妹、岩淵優子が財界人の娘として、何不自由なく暮らしていることを知る。
親戚の家を飛び出し、隠れて優子に会いにいくが、優子は、亜紀子を汚いものを見るようにさげすんだ。
亜紀子は優子を殺害し、優子と成り代わることを決意する。

スキー場のある別荘に友達と来ていた優子を、匿名電話で誘い出し絞殺。
遺体を亜紀子自身が自殺したように偽装する。
記憶喪失を装い、優子を演じる亜紀子だったが、次第に自分とは全く違う優子を演じることが辛くなっていく。罪の意識にもさいなまれ、怯えた毎日をすごす。

なぜこのタイトルなのかというと、かつて亜紀子が子どもの頃、ただ一人信頼していた、童話作家志望の紅村雨月が教えてくれた寓話になぞらえている。

「カナリアは、その美しい声ゆえに王さまになりたいと思っていた。
ところが、他の鳥たちは、王様にはもっとも優美な孔雀を選んだ。
カナリアは孔雀を殺し、輝く羽を身にまとい孔雀になりすまして王さまになった」

かつてかわいがってくれた紅村雨月が、優子を追い詰めていくのがまた悲しい。
秘密を暴かれないためには、雨月に背を向けるしかない。

一見どんなに恵まれていようとも、自分以外の誰かであり続けることは、たとえようもない苦しみをもたらす。
自分の資質が何一つ生かされないからだ。

奪って得たものの虚しさに亜紀子は嫌というほど気づいていただろう。

結局自分の資質を生かして生きていくしかないと思わせてくれる作品。
さすが美内先生、深いです。

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