楳図かずお『漂流教室』-極限状態で繰り広げられる子どもたちの人間ドラマ

楳図かずお先生の『漂流教室』を再読。
以前に読んでいるので、結末は知っているのだが、マンガアプリの「さんでーうぇぶり」で、隙間時間に読み始めたらとまらなくなり、毎日少しずつ読み進め、結局最終話まで読んでしまった。
ドラマ化もされたので、(管理人は見ていないが)ご存じの方も多いと思う。
人類が滅亡した荒廃した未来へ、学校ごとタイムスリップしてしまうSF。
ホラーの要素もあるけれど、そう一括りにできない、様々なエッセンスが詰められている。
楳図先生の鬼才、天才ぶりがいかんなく発揮された名作。
常人の想像力では、決して及ぶことのない世界が、展開する。
主人公は、大和小学校の6年生、高松翔。
ある朝、母親と喧嘩し、仲たがいしたまま学校へ行く。授業を受けていると、激しい地震に見舞われる。外を確認する為、教室を飛び出した翔は、そこで驚くべく光景を目の当たりにする。
学校の外は、どこまでも続く、砂と岩ばかりの荒廃した砂漠と化していた。
頼りになるはずの先生たちは、錯乱し自殺したり、あるいは、狂気にかられた教師に殺害される。
大人がいなくなると、動揺した子どもたちは、制御の効かない状態へと陥っていく。
水も食べ物も殆どない極限状態の中、疑心暗鬼に陥り、対立しあう。そこに襲い掛かる、怪虫や未来生物などの未知の生物。
自殺、狂気、ペスト、飢えによる裏切り。子ども同士で殺し合い、次々と命を落としていく。
不安、恐怖。ベタの多い、おどろおどろしい画面描写は、まさに楳図先生の真骨頂だ。
絶望的な展開がこれでもかと続くが、翔と反目していた大友が、一転、自分の罪を認めることで、翔と和解、友情が復活する。今まで大友がしてきたことを考えれば釈然としない気もするが、翔は「ありがとう」と、謝罪を受け入れるのだった。
何と言っても、この物語のトリックスターは、翔の母親の恵美子だろう。
常軌を逸していると周囲に思われようが、終始一貫して、息子のことを想い続けて行動する。一途な想いが胸を打つ。
その恵美子の行動が、物語を大きく揺り動かす。
そして、3歳児のユウちゃん。
幼く自分の名前を「ユウちゃん」としか言えなかったために、そう呼ばれているユウちゃんは、漂流当日、翔と遊ぶために校庭にいたため、漂流に巻き込まれる。
ユウちゃんがいたからこそ、翔は父親役として、強くなれたのだと思う。
そして、この子だけでも、現代へ帰したいという翔の慈悲の心が、一筋の希望を繋ぐことになる。
翔に応えるようにユウちゃんも、幼いながらに自らの使命を理解し、果敢にその運命を引き受ける。
翔の日記を託されたユウちゃんの並々ならない決意の表情に、つい涙腺が緩んでしまう。
希望を感じさせる終わり方ではあるが、その希望は、とてつもなく厳しい希望である。
ただ、強い生命力を持った、大和小学校の子どもたちなら、きっと未来を切り開いてくれるだろう。
そう願わずにはいられない、胸に迫るラストになっている。