あしべゆうほ『デイモスの花嫁』-人間の愚かしさ、怖ろしさのコレクション

今日は、あしべゆうほ先生の『デイモスの花嫁』、再読。原作は、池田悦子先生。
『クリスタル☆ドラゴン』と共に、昔から大好きだったホラー・ファンタジーマンガ。
兄妹で愛し合うという禁忌を犯した為に、ゼウスより天界から追放され悪魔になった兄デイモス。美の女神でもあった、妹ヴィーナスは、生きながら朽ちていくという罰を受ける。
ヴィーナスの生まれ変わりの美奈子の命を奪い、その亡骸にヴィーナスの魂を入れることができれば、ヴィーナスは、再び美しさを取り戻すことができる。
ヴィーナスの為に、美奈子に近づくデイモスだが、次第に美奈子に惹かれていく。
美奈子を殺してヴィーナスを取るか、美奈子を選んでヴィーナスを見捨てるか。そのデイモスの葛藤が縦軸。
横軸には、各ストーリーごとのゲストキャラクターの人間ドラマが展開する。
そこに関わるのは、もちろんデイモスと美奈子。あるときは、デイモスの計り事により、またあるときは、愚かさゆえに、悲劇的な結末へと突き進んでいく。
欲望、嫉妬、高慢、虚栄、執着、劣等、猜疑、様々な負の感情に絡めとられ、破滅していく人間たち。
子ども当時本当に怖くて、コミックスを一冊読み終えると、魂がどこかに抜けたような感覚があった。
あしべ先生の流麗で残酷な描写は、いともたやすく、別の世界への扉を開けてしまう。
秋田文庫の5巻に収められている『悪魔の輪つなぎ』という作品が、結構トラウマだ。
この回の主人公は、美奈子の友達の知子。
父親には「金くい虫」と呼ばれ、溺愛されている。デイモスが見せてくれたカードによれば、知子は、金持ちの屋敷の前で死んだ猫の生まれ変わり。死んだ猫の手にはドクロの痣があったが、同じように知子の手にも痣がある。知子の贅沢は際限がなく、やがて一家は落ちぶれていく。それでも父親は、知子にねだられるままに、スポーツカーを買い与えるが、浮浪者を避けようとして、ビルに突っ込み車は大破。知子は死んでしまう。
次に知子が生まれ変わるのは、ドクロの斑紋のついた蝶。そして、次は小鳥。
死の影に怯える美奈子の元にデイモスが現れ、黄泉の国へと誘う。
デイモスの差しだした手を取れば、めぐる輪廻は断ち切れる。永遠の若さと美しさも約束される。
けれど、「死があるから誕生がある」と、それを拒絶する美奈子。
生まれ変わりというのは知っていたと思うけど、「輪廻転生」というものを強く意識したのは、この作品だったと思う。人間に生まれ変わることも叶わず、すぐに死んでいく知子の姿は、鳥肌ものだった。
デイモスの誘惑に負けない美奈子の達観した潔さみたいなのは、やはりヒロインだからか。自分だったら、すぐデイモスの誘惑に乗ってしまいそう。
人間の愚かしさ、怖ろしさのコレクションともいうべき作品。
ちなみに『デイモスの花嫁』は未完。その後、『デイモスの花嫁 最終章』がスタートしたが、現在はお休みのよう。あしべ先生の体調が心配。『クリスタル☆ドラゴン』と併せて、結末を見られる日が来ることをひたすら願うばかりだ。