千明初美『千明初美作品集「ちひろのお城」』-少女の繊細な心の機微が描かれた作品

千明初美先生の「ちひろのお城」を再読。
70年代のりぼんに掲載されていた千明先生の作品を集めたもので、復刊ドットコムから2017年に復刻された。漫画家の高野文子先生が企画・監修。
子どもの頃の愛読書は、『りぼん』と『なかよし』。夢中になって読んだ。だから、収められている作品は、全てではないが、結構記憶に残っている。収録作品は、「ちひろのお城」「いちじくの恋」「涙がでちゃう」「バイエルの調べ」「お二階は診察室」の5作品。
当時は、ドラマチックというよりリアル路線なストーリーに、あまり興味が湧かず、さらっと読み流していたように思う。胸がちくちくと痛かったのだ。その痛みの正体が何かを理解するには幼すぎて、あまり面白くないという解釈をしていたのかもしれない。
年を重ねた今読むと、少女の繊細な心の機微が描かれた、優れた作品群だとよくわかる。
タイトルにもなっている「ちひろのお城」は、初めて読んだ。
主人公は水谷ちひろ。母親を亡くしたばかりのちひろは、友達なんかほしくないと、教室内の誰にも打ち解けず心を閉ざしている。転校生にも田舎から手伝いにきた祖母にも、辛く当たってしまう。亡くなる前、ちひろの母は、幼いちひろを子どもたちの輪に入れようとするが、自分ひとりの世界を大事するちひろは、それを受け入れない。自分の世界にずかずか入り込んで、自分の城をめちゃめちゃにする友達はちひろにとって暴力そのものだ。
母が望む社交的な自分になれないこと、何もかもうっとうしくてママなんかいなくなればいいと思ってしまったこと、それが叶ってしまったことの罪悪感が、ちひろを苦しめている。
「ママのかわりにちひろが死ねばよかったのに」と泣き崩れるシーンが切ない。
けれど祖母の優しさに触れ、感情を祖母にぶつけることで立ち直っていく姿が、印象的だ。
母が理解しなかった一人の世界だけど、実はそれは創造の根源だったりするのではないかと思う。
内的世界の豊かさが、誰にも真似できないその人独自の作品を作る。
千明先生は、ちひろのような子どもではなかったのか。だからこそ、こうした素晴らしい作品を描くことができたのではないか。
そんなこと考えながら読むと、より一層面白い。
伸びやかな丸っこい柔らかな線も、千明先生の魅力だと思う。
スクリーントーンを多用せず、線で魅せてくれる。
学習漫画で伝記を書くようになられて、ストーリーマンガは描かれていないようだ。
残念に思うけれど、こうした作品を今読めることを幸せに思う。