マンガや本を読んで思ったことなど書いています

忠津陽子の『三月の庭から』-弟を殺された兄の復讐譚

忠津陽子『三月の庭から』

忠津陽子先生の『三月の庭から』読了。

初出は、昭和53年の『lala』。
今では相当手に入りにくい本だと思われます。フリマアプリにもなかなか出てこないので、多分相当レア本。

忠津先生が活躍していた掲載紙と、子どもの頃読んでいた雑誌が微妙にずれていたこともあって、『三月の庭から』は未読でしたが、今回手に入ったので読んでみました。

コミックス見返しの紹介文に「忠津陽子がロマコメの名手といわれるわけは本巻を見れば明確だろう」と書かれています。
ロマコメとは、ロマンチックコメディの略だそうで。忠津先生がロマコメの名手であることは『結婚の条件』なんかを読むと、よくわかります。
ただこの『三月の庭から』に限っては、ドシリアスです。

あらすじは、こんな感じ。

広大な大農園の娘として、5歳のジェニファは、父、母、兄のジェフリーと一緒に暮らしている。
ある日、ジェフリーは友人のギルバードと共に、農園の敷地内の小屋で、両親を亡くしたみなしごの兄弟、エディとティムを見つける。

勝手に小屋に入り込んだ二人をなじり、追い出すジェフリー。追い出された二人の兄弟は、森でジェニファと出会う。

ジェニファによって農園の屋敷に連れていかれた二人は、両親が死に親戚の家に行こうとしているところだと、ジェニファの両親に告げる。
しかし、兄弟が頼ろうとしていた親戚は、とうに亡くなっていた。途方に暮れる二人の兄弟。

同情したジェニファの両親は、この屋敷に泊まるよう勧める。
無邪気なジェニファは、エディとティムにすぐに打ち解け、一緒に遊ぶようにせがむ。ジェニファが遊び相手のエディとティムを「どこへもやっちゃダメ」と駄々をこねるので、両親も根負けし、二人を屋敷へとどまらせることにした。

しかし、ジェフリーは、それを快く思っていない。
森で弟のティムを見つけたジェフリーは、ティムをからかい、乗っていた馬を駆って逃げるティムを追い詰める。つまづいて転ぶティム。

よけ切れないジェフリーの馬が、ティムを大きく跳ね上げる。
エディが駆け寄ってティムを抱きしめるが、力なくうなだれたティムは、そのままこと切れる。

ジェフリーは、あくまで事故にすぎないとして、自分の非を認めない。
友人のギルバートも、それに同意する。

憤るエディ。
夜中、屋敷の銃を奪ったエディは、ジェフリーに銃口を向ける。
ジェニファの父がそれを止めると、エディは屋敷から逃げ出す。

それから月日が流れ、美しく成長したジェニファ。今や幼馴染のギルバートと婚約している。

そこへ名を変え、復讐の為に舞い戻ってきたエディが現れる。
その姿を見たジェニファだけが、エディに似ていることに気づくのだった。
エディの復讐が始まる。

とまぁ、そんな内容。

昔の少女マンガには、この手合の復讐譚が結構ありました。
それも今みたいな長編の中で語られるのではなく、読み切りやコミックス1冊分とかの、比較的ページ数が少ない中で、描かれることが多かったと思います。

この『三月の庭から』もわずか100ページ程度の小品。
だけど、内容が薄いかというと、さにあらん。密度は濃い。

こういう復讐譚が結構好きです。
昔大好きだった和田慎二先生の『バラの追跡』や『オレンジは血の匂い』とか。

エディにとって、ジェニファは仇の妹。ジェニファを憎からず思っていても復讐はやめるべくもない。

愛憎が入り混じると、いやが上にもドラマチックに盛り上がります。

昔は、短いページ数でも物語の広がりを想像してそのスケールの大きさを感じ取る能力があったのだけど、悲しいかな、ページの多いマンガに慣れすぎて、その奥行きを感じる能力は失われてしまいました。
これは自分の経験値があがって、細かいとこに気づけるようになったからでもあるんだけど、昔の方がマンガに対する満足度は高かったように思います。

『三月の庭から』も昔読んでいたら、もっと胸にぐっと来ていたと思います。

それでも十分エディの心情は、胸に迫ります。

そして、なんといってもこの表紙。
忠津先生の絵のうまさが抜群に出ています。

ジェニファの優しさ、はかなげさが伝わってくるし、エディの視線はジェニファを外れ、どこか別の思いに囚われているようにも見えて。
どんな物語が展開するのか、読む前からワクワクさせてくれます。

同時収録は、『憎みきれないろくでなし』『勝手にしてよ!』。

『三月の庭から』はラインナップに入ってませんが、今ならアマゾンの読み放題で、忠津先生の『結婚の条件』『ハロー!王子さま』が読めます。
こっちはまぎれもなく、ロマコメ。

関連記事

profile
プロフィール