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笹井恵里子 『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』-あまりの破壊力に思わず掃除がしたくなる!?

潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病

『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』読了。今回はマンガではなくノンフィクション。
著者の笹井先生が、 生前・遺品整理会社の作業員として「ゴミ屋敷の整理・清掃作業」に体当たりで潜入した渾身のルポルタージュ。

帯には、「こんな家に住んでいると人は死にます」というセンセーショナルなキャッチコピーがおどっている。

描かれるのは、単なるゴミが多いだけのゴミ屋敷ではなく、ゴミの中で人が亡くなるような壮絶かつ凄惨な現場。

ダニやしらみに刺されてできる発疹はいうに及ばず、感染症を発症したり、作業中に傷口から雑菌が入り、足の切断を余儀なくされた作業員もいて、まさに命がけの仕事。

文章だと、臭いは感じないのでするすると読めるが、ときに死臭も入り混じる臭気は、現場で作業をする人にとっては、身の毛もよだつ空恐ろしい体験であることが想像できる。

天井に届きそうなゴミの山、おびただしいクモ、ゴキブリ、ウジ、ハエ、小便入りのペットボトル(いわゆるションペット)、大爆弾(大便)、そしてご遺体。

本書を読むと、ゴミ屋敷に住むのは、学校の先生、医療関係者、大手企業勤務など、社会的に地位の高い人も多く、決して特殊な人々ではないことがよくわかる。

ためこみ行動の原因には、「強迫症」「統合失調症」「認知症」「ADHD」「ASD」など、精神疾患が隠れていることも少なくないそうだ。

「「片付けられない人」の家は何かのきっかけで「ゴミ屋敷」になる可能性がある」という一文が、胸に刺さる。
さすがにここまではいかないが、うちもそこそこ汚部屋。

多分、最初は、「こんくらいいいよね」「後で片付けよう」とか気軽な気持ちでゴミをためこみ、最終的に自分の手ではどうにもならないほど、ゴミが積みあがっていったのだと思う。
そしてあるとき、もう無理だと悟る。

読んでいると、じわじわ胸が締め付けられ、あ~掃除をしなくてはという焦燥感に突き動かされる。ここで手を抜けば、待っているのは地獄。

ションペットが部屋中にあふれかえる状況に「トイレでした方が楽じゃないの?」などと思ってしまうが、トイレが壊れたり、料金滞納で水道がとまってしまえば、ションペットもやむなしとなってしまうのだろう。私も経験があるけれど、部屋が汚れていると修理業者を呼ぶことを躊躇してしまう。

実は、管理人の義母もなかなかの破壊力を持った、汚部屋の住人だ。お舅さんが亡くなったとき、葬儀は会館で行ったが、土地柄、親戚の人たちもちらほら家にやってくる。

葬儀前、大慌てで掃除をしたという過去がある。より口うるさそうな親戚がくる前に、我々子どもたちとお義母さんの兄弟で、せっせと掃除をする羽目に陥ったのである。
そしてもちろんいくらかはましになるが、やはり間に合わないのである。

このお義母さんのことは決して嫌いではないし、嫁姑的なバトルもなくて関係は良好だ。だけど、それでなくても人が亡くなると、目まぐるしくすることがあるのに、ましてや伴侶が亡くなるというとてつもないストレスフルな状況の中、部屋の掃除をしなくてはいけない状況は、相当に難儀なことだ。

やはり散らかしても、自分の手に負えるくらいで、とどめなくてはいけないことを痛感させてくれる一冊。
そして手に負えなくなったら、プロの手を借りることも必要。
清掃業社の方々、並びに体当たりでレポートしてくれた笹井先生には、頭があがりません。

部屋がなかなか片付かない方、一読してはいかがでしょうか。
わが身を振り返り、思わず掃除がしたくなること請け合いです。

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